マツキタイジロウ
HANDセルフライナーノーツ⑩
【2019/8/11】
M10.「Summer in My Life」
デモは割としっかり作った。
イントロのリフが浮かんでいたのと、コード進行に対してメロディーが一番グッと来るポイントを探るのに試行錯誤したのでそこは崩さないように、と思っていたのだと思う。
2番以降の展開はセッションしながら。
なかなかドラマチックになった。
「夏はまた必ず巡ってくる」というメッセージをアルバムの最後に置くことで、もう一度1曲目を再生した時にギターカッティングが灼熱の熱風のように感じられる仕組み。
というのは偶然でもなく、デモの段階から1曲目と10曲目だけは曲順が変わらなかったので、当初から頭の中でそんな風にイメージしていたようだ。
全編コードカッティングは350T→コンプ→デラリバ。
ソロも350T→JHS M.G.→ディレイ→プリンストン。
ダビングものはどれもストラト。
今回はストラトが大活躍。
フルアコとの相性がいいようだ。
と言うわけで長々とお付き合い頂きありがとうございます。
とにかくいいアルバムが出来た!ってことを出来るだけ言葉で伝えられるよう努力して参りましたが、
受け取り方、楽しみ方はあなた次第。
色々想像しながら聴いてみて下さい。
そしてCDで楽しんで頂いた後は是非ライヴでお楽しみ下さい!
おしまい
HANDセルフライナーノーツ⑨
【2019/8/10】
M9.「Pie」
ある意味一番アフロファンクっぽいムードで始まる曲。
ワンコーラスだけデモを作り、あとはスタジオで何とかしようと試みる。
ブレイクからワルツになり怒涛のソロ回しへなだれ込み元に戻ることなくエンディングへ向かうめくるめく展開は、最近のアニソンやアイドルの楽曲からの影響、というより思いついたことは全て試したセッションの賜物。
アフロファンクと言ってるけどこんなものも聴いていたシリーズ。
Geraldo Pino”Heavy Heavy Heavy”
これは正真正銘アフロファンク。
ブラジルのファンクのコンピ。
これも面白い。
フランスのJ.B.ことニノ・フェレール。
ポルトガル語やフランス語でファンクするのと日本語でファンクすることは似ている。
メインはエピフォン335→JHS M.G.→デラリバ。
左で鳴るワウはストラト。
ギターソロで活躍したオートフィルター。
強者に必死で抵抗する弱者の会話、みたいなイメージ。左右にパンされているが一本で弾いてます。
つづく
HANDセルフライナーノーツ⑧
【2019/8/8】
M8.「Sugar」
いつ聴いてもキュンとしてしまう曲が世の中にはある。
勿論「キュン」の塩梅は人それぞれだとは思うが、「かつて味わったことのあるような、郷愁を伴う胸を締め付けられる感情の高ぶり」のスイッチを入れられる、みたいな経験はどんな人にもあるのではと思う。
そんな曲が作りたいのである。
歌だけでなく楽器の鳴りやアンサンブルが、語り過ぎずしかし全てを言い表しているような、そんなシンプルでノレるのにグッと来る曲を作り続けることもスクービーの”mellow”サイドに課せられた大きな使命だ、と勝手に思っている。(『夕焼けのメロディー』から20年だそうです)
今アルバムでは最もキュン度が高い、と個人的に思っている楽曲。
キーがBbで6弦ルートのEbを押さえる関係上12フレット付近でも押さえやすく、またコードリフがまとまる軽めの音のエピフォン335をチョイス。
コンプを通しデラリバへ直。
左が’92年製エピフォン335、右は最近預かった”80年製ヤマハSuper700。どちらもまるで音のキャラが違って面白い!
サビやアウトロに登場するリフはストラト。
デビッド T. ウォーカーのキュンと来るようなフレーズを意識しつつ。
ソロは350T。
フロントP.U.→JHS M.G.→ディレイ弱→プリンストン。
つづく
HANDセルフライナーノーツ⑦
【2019/8/7】
M7.「サバイバルファンク」
会場先行販売とライブ先行演奏が決定し、曲の抽象性を言葉にするよりステージ上から言っても分かりやすいようタイトルを「サバイバルファンク」とした。
五拍子のドラムパターンが最初に浮かび、
テーマ→リフAメロ→ブレイク→サビ(解放)というスクービー流ファンク王道パターンが頭の中で鳴った時に「これはメチャクチャカッコよくなる!」と確信しながら作った曲。
大サビ以降の緊張感漂うパートはセッションしながら作り上げる。
歌パートの後に簡単にギターソロにしないように工夫するのはウチのバンドだけではないと思うが、ギターソロ以上に意味のあるパートにするのも中々アイデアのいる作業でもある。
’18年末に池袋DEDEにて録音。Rec&Mixは中野正之(BAKKEN RECORD)。
エンジニアによって録り方もMixも出来上がる音もまるで違う、というところが録られる方としては面白いところ。
Mix確認用のラジカセ。
日常ではあまり見かけなくなってしまった機材も音楽制作の現場ではまだまだ大変活躍しております。
全編350TにM.G.を軽くかけ黒パネデラリバへ。
サビ以降左で鳴るのはストラト+コンプ→Bassman。
2番明けの展開ではストラトのリアピックアップのキンキンしたサウンドでリフを際立たせる。
つづく
HANDセルフライナーノーツ⑥
【2019/8/6】
M6.「Colors」
アフロファンク的新機軸がありながら、いつものスクービー味をもう一つブラッシュアップした新感覚な定番パターンも入り混じっているのが今回のアルバムに求められるバランスだ、という自分の中のプロデューサー感覚により制作。
コード感、メロディー、テンポともいつものスクービー節ではあるが、カッティングを2本のギターの掛け合いにしベースラインを八分で刻むことでモダンさを加える。
’18年末に池袋のStudio DEDEにてエンジニアに中野正之さん(BAKKEN RECORD)を迎え行われたレコーディングで楽器パートを録音し、その後歌録りとMixをピースミュージックにて行う。
右で鳴るのは350T。
DEDEにあった黒パネルのデラリバ直。
マイクの数がすごい。
57、421に加えビンテージモノのマイクも多数。
これらを組み合わせ立体的な音の響きをmix卓にて再現して行く。
左で鳴るのはストラト。
DEDEにあったBassmanの極初期のモデルにコンプを噛ませ直。
15wながらいい音していた。
背後にウッドベースやオルガン等、眺めるだけでも楽しいビンテージ楽器いっぱいのスタジオ。DEDE。
イントロとアウトロのテーマはストラトにM.G.でブーストさせロングディレイをかけBassmanへ。
煌びやかに爽やかに、を意識して。
つづく
HANDセルフライナーノーツ⑤
【2019/8/5】
M5.「One Short Summer」
夏を待ち侘びる学生の目線にこそ日本の夏の本質が隠されている、と思う。
チャラくて軽薄な、もしくはまるで浮かれていない日々を送っていたとしてもやがて終わりゆく夏は人生の輝く時期を想起させる。
だからと言って若者の夏が全てではなく、いくつになっても求めれば青春はやってくる、ということも言っておきたい。
2010年の「何度も恋をする」でもそんなモチーフの曲をいくつか作ったが、より重みと説得力が出せたのはキャリアと年齢のなせるわざか。
演奏も歌もリズムを重視しなんだか引っかかる、妙にクセになる楽曲になった。
夏だね夏!ウェイウェイ言っております。ソロアルバムを作るなら、ジャケにはプールで決まり!
右で鳴るのはデラリバ直350T。
左はコンプ噛ませプリンストン直ストラト。
手前はストラトのネック。
’18年末の「サバイバルファンク」Rec風景。
今でこそ「ヨットロック」などと洒落た名前が付いているが80年代のAORやニューミュージックで聴かれたよそ行きに着飾ったようななんとも言えないギターの音もたまらなく好きなので音作りで再現を目指す。
全編の単音リフはストラトのハーフトーン。
そこに更ににフェイザーとディレイを施しソロを録る。「リッチ過ぎてチープに聴こえる」みたいな感じが中々出ずMix時に低音を削ってもらいなんとか雰囲気だけでも自分のイメージに近づける。
つづく
HANDセルフライナーノーツ④
【2019/8/4】
M4.「MASETORA」
「マセトラ」はマセラッティトラックの略ではなく完全に造語。
ギターを弾きながら何故か「♪マセトラ」って出てきてしまい、意味もよく分からないままとにかく言葉が出てくるのに従う。
結果、煩悩は悪い事だけじゃなく人間が本来持つ「人間らしく生きる」という本能でもあり、そんな「煩悩の女神様」には逆らえない、ってイメージの曲になる。
ニューマスターサウンズが演奏しても似合いそうなディープなファンクチューンを目指しバッキングは軽やかなサウンドのエピフォン335。
軽くJHS M.G.でブーストさせてデラリバへ。
少し黒めのチェリーレッドなボディーが、そりゃもう、たまらない。
1サビから左で鳴るのはストラト+コンプ→プリンストン。
今回のギターダビングのテーマは「空間を埋めない」。
どの曲も何本かのギターが登場するが、音圧で派手さを稼ぐためではなく、必要な場所に的確な演出を施すための重ね方。
録音前に散々フレーズと音色を試す必要があり非常に時間のかかる作業だが、途中で投げ出さずやり遂げられた事は今回のアルバムの「小難しそうなのに聴きやすい」部分に大きな影響を与えている。と思う。
ジャズファンク的でありながらシンプルで必要最小限のリフを重ねる。
10/4拍子になるDパートはセッションから生まれたもの。
ギターソロのイメージはマイルスデイビス「On The Corner」。
マイルスのトランペットみたいな音を出したくて試行錯誤。結果ストラトにワーミーとショートディレイをかけ短いフレーズを積んで行く。
初期ワーミー。
忘れ去られた昭和のゲーム機みたいなルックスが素敵で手放せない名器。
つづく
HANDセルフライナーノーツ③
【2019/8/3】
M3.「Have A Nice Day!」
ソウルミュージックを聴いていて感じる熱さや生々しさ、だけでなくその裏にある気高さや気品みたいなものを自分たちの音楽にも閉じ込めたい、というのはスクービーを始めた頃からの命題でもある。
悲しい、という感情を持ったことがある人間であれば、生まれついたり与えられた抗いようのない状況に対して、決して屈しない、魂は渡さない、勝てなくても負けない、とかそういった心の理想的持ちようが、そうしたブルースを乗り越えて行くための手段の一つであることをどこかで理解はしているのだと思う。
そう、生きていれば色んな事が予想もしないタイミングで起きる。
だが闇雲なポジティブマインドにそう簡単になれはしない。諦念やケ・セラ・セラから生まれる表現によってそんなブルースを癒す手段も音楽にはある。だが今それは選びたくなかった。何故だかは分からないがきっと曲の持つ温度がそうさせているのだと思う。
例えばそこまで大げさなことでなく、好きなラブソングだったり、ユーチューブだったり、ちょっとした贅沢だったり、通勤中にすれ違うあの人だったり、友達や家族、ライブ、映画、食べ歩きだったり、きっと自分の生活の中にあるたわいも無い何かがそんなブルースを乗り越えるための手段にもなり得ることに気付いていたい、そんな軽やかな心の持ちようがソウルミュージックを聴いた時に感じる気品や気高さなのではないだろうか。
オーティス・レディングから忌野清志郎を経て言い継がれた「勇気を出せよ 君の人生だろ」って言葉が端的にソウルミュージックが持つ普遍的なメッセージを言い表している気がして大好きなのだが、自分の中で転じて「君は君の人生を生きろよ」つまり「Have A Nice Day!」となった、ってな曲です。
バッキングコードストロークはデラリバ直350T。
ギターソロはJHS Morning Gloryで軽くブーストしロングディレイをわずかにかける。
P.U.はどちらのギターもLindy FralinのPure PAF。
左は’65年350Tのナチュラル。
右のメインより甘いトーン。
スクービーだとバンドアンサンブルに埋もれがちなのでなかなか出番がないのが気の毒。
ダビングはフェンダー社に借りた’68 CUSTOM PRINCETON REVERB。
出力12Wと小ぶりながらギターそのものの音を余計な味付け無しに引き出してくれる。
ストラトはフラット、箱モノはハイ上がりにEQをセッテングする。
サビとAメロの単音リフはストラト。
サビをハッとさせるためサビ頭にストラトにディレイをかけ4音コード弾きしハープのような効果を狙う。
Jazzy Cat素晴らしや。
全編に渡って歌の合いの手のように入るフレーズはエピフォン335。
’92〜3年にギブソンパーツのみを使い製造されたモデル。採算度外視し過ぎすぐ製造中止になってしまったそう。11年前に旭川の古道具屋にて購入。
こちらもP.U.はLindy FralinのPure PAF。
JHS Morning Gloryで歪まない程度にブーストしプリンストンへ。
’18年12月の「サバイバルファンク」録音時にプリプロとして試し録りした結果やや冗長に感じたため、余分な部分をカットし構成し直すことで尺の割にドラマチックな進行の楽曲に生まれ変わった。
これもバンドマジック。
つづく
HANDセルフライナーノーツ②
【2019/8/2】
M2.「Soul Fresher」
7thコードがコロコロと転がり色んな所に着地しながら進んでいく。イントロとAメロに2拍余分にキメを追加したらなんかジャジーだなぁ、と一人興奮しながらデモを打ち込む。ブルースフィーリングたっぷりの今までもやって来たような手癖ばかりの曲ながら、今までになかった感触。
アグレッシブなドラムパターンと2番Aメロのベースとギターのリフの緊張感漂う掛け合いはみんなでスタジオでセッションしながら作り上げた功績の一つ。
詞は出来るだけ響きと韻を重視しスピードが落ちないよう心がける。
デモに入れた自分の歌メロが正確さを欠き、きちんとそのまま覚えていた優秀なヴォーカリストに歌入れ時迷惑をかける。
「鼻歌じゃないんだからっ!」と自分で自分に突っ込みを入れる。
全編バッキングは350Tをデラリバ直で。
花と車とギター。
自然と機械と人が融合しながら圧倒的な土臭さを感じる写真。
左にいるのはストラト。
こちらもコンプからアンプ直。
ジェントルなヘッド。
大サビで足したストラトに、ピースミュージックにあった’70年代モノのフェイザーをかける。
よくエレピに掛かってるヤツ。
気持ち良くてずっと聴いていたくなる。
ギターにかけても同じ感じでトローンとなる。
「ずっと聴いてたいんだよ、おんぉ〜」を写真で表せばこんな感じ。
(お刺身、というよりわさび醤油が好きです。聞かれてませんね)
先日Player誌の取材でライターの方に「この曲が一番モダンですね」と言われたのは嬉しかった!
つづく
HANDセルフライナーノーツ①
【2019/8/1】
「Have A Nice Day!」発売を記念し、前作に引き続き作者自らこの作品をどこよりも誰よりも詳しく解説させて頂きます!
今回は普段語る機会の少ないギターを中心にレコーディングを振り返りながら少しマニアックなお話も出来たらなと。ギター好きの人はかなり、そうでもない人もそこそこ?楽しめる内容になるかな、なるといいな、なれ。
いわゆる副音声とかスピンオフ的なアレですのでアルバムを聴きながらでも通勤通学中にでも暇つぶしにでも気軽にお付き合い頂ければ幸いです。
M1.「真っ赤なノンフィクション」
前作「CLACKLACK」リリース後から、アフロファンクみたいな曲やってみたいなぁ、とボンヤリ思いながらアイデアだけを思い詰める日々を送る。あの巨匠、池波正太郎も真夜中の数時間にペンを握るまではその日描く事をただただ思い詰めていた、と言うくらいだから、アイデアを形にするには時間がかかるのだ。
ついに2018年の9月、思い立ってそれまで温めていたアイデアをデモにし始める。そんな中で形になった最初の曲。アフロ感のあるリフを探りながらギターを弾きロジックにリズムを打ち込んでみると11/8拍子に。我が事ながら「なんじゃこりゃ!?」と思いつつ、狙っていた所と違うが何だか得体の知れない高揚感を感じ、これはヤバいものが出来る、という手応えを感じる。
全編に渡るコードストロークはライヴでも同じみメインのGibson350T。1981年製。まあまあビンテージの域か。98年に手に入れたので既に20年以上の相棒。
センターブロックの無いフルアコなのにボディーが薄く、軽い、という所もお気に入り。
田島さんが持つとレスポールサイズに!
んなこたないか。
2年前のナタリーにて。
クリーン過ぎてもイメージと違うのでクリーンブースターJHSのMorning Gloryで若干歪ませ気味に。これフレデリックのギタリスト赤頭くんにおススメされてからずっと使ってる。
設定はこんな感じ。DRIVEを上げていくと音も硬くなっていく。Lowはややファットだが自然で350との相性がいい。
メロディーに誘われるまま出来たサビのコード進行Dm7→Em7→EbM7→Cm7→BbM7→EbM7→Bm7→E7
てのがなかなかあり得なくてお気に入り。
Bメロから左側で鳴り出すのは’90年製Fender Japanストラト。ピックアップをKlein社のJazzy Cat(ジョン・メイヤーのストラトを研究し開発されたそう)に変えフロントピックアップのヌケが堪らなく気持ちいい。
「あっしでござんすか」と今にも言い出しそうな、どこからどう見ても典型的なストラト。
Providenceのベルベットコンプを噛ますとミッドレンジがグッと上がるので今回はストラト+コンプが大活躍。ドリアン一発なサビ後のフレーズには長めのディレイを。
BRADIOのギタリスト聡一くんが使っているのを見て試したら凄く良くて。レコーディングには欠かせない一品。
大サビではストラトにファズとロングディレイで「混沌の中に浮かび上がる美しさ」を表現するストリングスの様なフレーズを差し込む。録音し終えコンソールに戻るとエンジニアの中村さんがポツリ「ファズの正しい使い方だと思います」。
アンプはFenderさんにお借りした現行’68 Custom Deluxe Reverbe。
録りマイクはゼンハイザー421、通称クジラマイク。豊かな中低域をクリアに録れる。
インプット1のBassmanチャンネルにもリバーブをかけられる仕様になっているのが現行品の素晴らしいところ。今回はBassmanチャンネルを使用。
Bassmanチャンネルは中域が豊かなのでハイ上がりな設定。弦とピックが擦れる音まで再現してくれる繊細な音。
つづく。