CRACKLACK セルフライナーノーツ

【2017/10/4】

かっこいいこととは?新しいこととは?
スクービーが今鳴らすべき「Funk-a-lismo!」とは何なのか改めて考え抜いた末に辿り着いた場所「CRACKCLACK」。
もちろん今までと違うところは多々あるしそこを目指したはず。だが改めて聴くとやはりどの曲もスクービー節なのが自分でも笑えてしまう。

 

 

 

1. Love Song

 

アルバムの曲作り終盤、「パッと開けるようなオープニングの曲が欲しいな」と思い、モータウンmeetsディスコmeetsブレイクビーツ、つまり自分の大好物を全部乗せしてみようと試みて作った楽曲。結局ディスコの部分は大サビにしか生かされなかったけど、遡れば2011年のアルバム「MIRACLES」で目指した「完成されたポップス」という世界観が6年越しにここへ繋がったのだと気づく。佐々木詩織さんのコーラスも3度目のRecということもありアレンジもより大胆になってきて(なんせ第一声は彼女の声ですから)ともすれば男子部室臭過多になりがちなスクービーの楽曲に女子マネージャーのごとくさわやかな風を吹き込んでくれた。詞が出来た瞬間「自分自身へのラブソング」という今アルバムに通底するコンセプトが見えたが、自己肯定のみじゃ気に入らず「手に負えそうもない」なんてリフレインするサビに。ま、この無いがち感とラストサビ明けに入るMOBYのダチーチーチーも安心のスクービー印かと。

 

 

2. Cold Dancer

 

2017年4月リリースの先行シングル「ensemble」は試みやマインドの部分はさておきシングルの曲調としては「変化球を投げた」感があったので、アルバムのリードトラックは「ストレートを投げよう」と思って作った曲。今っぽい「小股の切れ上がった4つ打ち」を意識しながら、自分の心の中の「後藤次利先生」がポロっと出てきたようなメロディーと、ここでも詩織ちゃんのコーラスが曲を更にアダルトにさせていて、自分でも胸がキュンとする仕上がりに。
漠然と「生への願望」をテーマにしようと考えていたらふと「心が踊っていなければ屍同然」という言葉が浮かびそのまま詞も仕上がった。「こんな路地裏」は渋谷は桜丘の定食屋「かいどう」のあたりを漠然とイメージ。MVで「だるまさんがころんだ」を発案してくれた加藤マニ監督の鋭すぎるセンスには脱帽です。

 

 

3. My Rhythm

 

未だ開発途上の渋谷駅で電車を乗り換える際に、複雑化したコンコースを歩きながら迷宮に迷い込んだような恐ろしさを覚え、ふと歌い出しが浮かんだ曲。考えたらよく行く下北沢の駅も今なかなかのラビリンス感があって、曲に漂うクールさは果てし無く地下へ下って行く感覚とかムードに引っ張られて出て来たものかも。nujabesのトラックのように繋がらなそうなコードを繋いで美しさを生む楽曲にしたくて、サビでやり切れなさを吐露する主人公の苛立ちをアッパーかつ緊張感あるコードで表現してみた。人は沢山いるのに心はどこにも無いような都会の人間交差点のムードもイントロや間奏のブレイクの不穏さに反映されているかと。サビに呼応して入るタッチワウをかけたギターリフがまるでムーグのような音色で気に入ってます!

 

 

4. ensemble (Album Version)

 

先行シングルのミックス違い。アルバムに合うようによりマイルドかつウォームなバランスに。この曲で13年振りにシングルを切ったことでバンドが新たなステージに入ったと言える一曲。「ダチーチーチー」が入りまくるファンキーでメロウな曲、というアイデアを元にデモを仕上げた後に行った2016年11月のRHYMESTERとのツアーの打ち上げでDJ JINさんのフェイバリットブレイクならぬフェイバリットドラムフィルが「ダチーチーチー」だと伺い、この曲に対する自信が確信に変わる。しかしこの夜にはまだ「ダチーチーチー」がここまでブームになるとは想像もしていなかった…。
デモを生音に差し替えて行くという新たなRec方法が生まれ、このアルバムにも踏襲されているが、スクービーの魅力の一つである「動きまくるベースライン」はこのテンポでもユルく感じさせないジョーのスキルの高さに負う部分が非常に大きいのは言わずもがな。

 

 

5. 禁じられたふたり

 

「ensemble」より前に作った曲。マイケル・ジャクソンの「Billie Jean」みたいに曲はグイグイ行ってるんだけど歌詞はビッショビショ、みたいな曲が作りたくて。過去には「Private Lover」とか「セツナ」とか、禁断モノって絶対に抗えないブルース感があって好きで、歌にし易いところもあってほっとくと妄想が膨らんで(あくまで妄想ですよっ)ちょいちょい出てしまう。キックとベースラインとハンドクラップだけでアッパーに持って行けるディスコ感と70年代ウェストコーストAORのメロウさが同居したような不思議な曲。エンジニアの中村さんに「Mayer Hawthorneみたいだね」と言われたのは嬉しかった!間奏のファズギターの逆回転も気に入ってます!

 

 

6. Lack

 

元々オリジナルラブ「接吻」とキリンジ「エイリアンズ」を足して割ったような、試みだけは図々しい曲だったがバンドで合わせてみてもどうしても良い感じにならず2コードモノとして大幅に書き換えた曲。大好きなスタンダード「スパルタカス愛のテーマ」からの影響がリフに多々。「求めるほど絡まって〜」はバンド22年の歩みそのものであり生きてることそのものといった意味で。ギターソロ明けのリフは教則本的ドリアンで恥ずかしながらしかしニクい味付け。静かな曲調なのでギターワークはJohn MayerやU.K.のTom Mischのバッキング感を意識。キャンペーンに行くとこの曲好きと言ってくれる方が多くて嬉しい!

 

 

7. 愛はもう死んだ

 

2016年10月The Birthdayと対バンした頃に作った曲。モロに影響を受けてバンドのグルーヴと歌が拮抗して力強くてぶっとくて気持ち良い曲が聴きたいと思ってたら「愛はもう死んだ」ってサビが出て来てそのままスルスルと出来た。これまでのスクービーを踏襲しながらもヒラ歌のポリリズム部分にはギターにユニゾンするクラヴィネットが鳴っていたり、コンガやシェーカーの人力グルーヴによって、スペーシーかつ新たなファンクチューンが産まれたかと。エモーショナルかつブルージーな歌の仕上がりにウチはヴォーカルがコヤマシュウで良かったと思わずにはいられない。

 

 

8. Last Night (Album Version)

 

こちらもアルバム用ミックスによりマイルドかつさっぱりしたバランスに。歌い出しの詞は元々は先述のライムスとのツアーで共演した「グラキャビ」用にシュウ君が書いたラップを土台にしており、それはスクービーが2006年に所属事務所を離れる際所属先輩アーティストの山下達郎さんからかけて頂いた言葉、つまり「ミュージシャンとして食べて行ける方法を探しなさい」「1人でもいるはずの全国各地のファンに会いにツアーに行きなさい」のことであり、メンバーにとっても非常に大切な意味を持つ曲になったためアルバムへの収録を決めた。ヒップホップ的ビートにジョーのアップライトベースが心地良く曲の持つウォームさを引き立てている。

 

 

9. MI. RA. I.

 

全体的に抑えめなBPMの曲が多い中「アルバムはテンポの早い曲も遅い曲もバランスよく存在しなければいけない」という誰にも頼まれていない自分の中のプロデューサー感覚の発露により完成した曲。Lonnie Liston SmithのスペーシーさとMOON CHILD(日本の)的昭和歌謡メロディーを持った、今のスクービーにしか出来ない、というより誰もやろうとしないファンクに仕上がった。
2番で聴かれるドラム&ベースオンリーのバッキングやコンパクトながらめまぐるしく展開していく構成、伸びやかなヴォーカルワークは正にスクービーの真骨頂であり、これまでとこれから、作品とライヴを繋ぐ重要な一曲。

 

 

10. Next Move

 

ファンクはイントロが一番重要だと考える自分にとって今回のアルバム中最も気に入っているイントロを持つ曲。Benny SingsとかDiggs Dukeのようなトラックも作っちゃうシンガーの軽やかさとゴツさが同居してるような曲を目指して作っていったらリズム構成がブレイク、4つ打ち、16ビートと展開していくこれまでにあまり無かった仕様に。Bメロとアウトロで聴かれるオートワウをかけたギターリフが何か喋っているように聴こえて気に入ってます。「希望だけが運命を超えて行く」(新しい夜明け)の通り結局人は自分の向いている方にしか進めないことに気付かされる毎日。
そんな中にふと転がる「次の一手」を今日も探しながら、まだまだバンドマンの日々は続く。

 

 

 

 

著者近影